3月8日 『ランド 世界を支配した研究所』の感想

『ランド 世界を支配した研究所』を読んだので、忘れないうちに感想を書いておきます。

 訳書というのは、英文を無理やり和訳したものなので、日本語で読むとかなり難解になってしまうのですが、本書は日本語でもとても読みやすくなっています。というのは訳者が訳者あとがきで書いているように原作者と頻繁に連絡をとって、人名の読み方など細かなところまで気を配っているからだと思います。

 序盤はランドが空軍のシンクタンクとして誕生し、ORやシステム分析を使いつつ、政策助言をすることで成長していくことが描かれています。中盤以降はバーナードブロディやハーマンカーン、アルバートウォルステッタ―が中心となってランドが核戦略に参入していく様子が描かれています。また、ランドがベトナム戦争の研究を通して、戦争賛成派と反対派に分かれ、ペンタゴンペーパーが流出します。終盤ではウォルステッターの弟子(ランドに在籍していたものが多い)がアメリカ政治の中心になっていく様子が描かれます。そこではランド研究所が9.11までにテロ研究に従事していたことも言及されています。

 以前、『DARPA秘史』を読んだときにも思ったのですが、DARPAもランドも数字ですべてを理解できると思っている節がありますよね。特にランドの場合、ケネスアローは個人はすべて自分の効用を最大化することを目的としているという前提を立てて、合理的選択理論を構築します。ゲーム理論でもこの前提が用いられるのは、ゲーム理論を作ったと言われるフォンノイマンと合理的選択理論を作ったケネスアローの両者がランドに在籍していたことと決して無関係ではないだろうと思います。作者のアベラはこの前提を現実を見ていないと批判していますが、この前提によって経済学が発展したことは否定できないと思いますし、前提に現実をすべて取り込むこともできそうにはないので、この批判はやや的外れな気もします。

 本書はウォルステッターがコンサルタント業でしこたま設けていたことやウォルステッターの奥さんが『パールハーバー 警告と決定』の著者だったこと、ラムズフェルドがランドの理事だったことなど、学術的な論文ではあまり語られないことを知ることが出来ました。その点でも非常にいい本だと思います。

 

ランド 世界を支配した研究所

ランド 世界を支配した研究所