3月15日 佐々木卓也『アイゼンハワー政権の封じ込め政策』の感想

 佐々木卓也著『アイゼンハワー政権の封じ込め政策―ソ連の脅威,ミサイル・ギャップ論争と東西交流―』(有斐閣、2008年)を読み終わったので、忘れないうちに感想を書いておきます。

 本書はアイゼンハワー政権の封じ込め政策を歴史的な手法で明らかにするもので、特にアイゼンハワー政権が軍事・経済的な封じ込め政策というよりも文化的な封じ込め政策を行っていたことに力点を置くものです。

 アイゼンハワーは大量報復戦略でよく知られていますが、その背景にはアメリカはソ連を充分に抑止するだけの核戦力を持っているという認識がありました。しかし、その背後にはソ連との冷戦が長期間にわたる戦いであると踏んだ上で、兵営国家になることで経済的に崩壊することなく、アメリカの生活様式を守る、という目標がありました。そのため、アイゼンハワー政権はスプートニクの打ち上げなどから巻き起こるミサイルギャップ論争に対しては非常に落ち着いた対応を取り、国防費の増加を抑えていました。

 また、アイゼンハワー政権は長期的な冷戦に勝利するため、米ソ間で文化交流を行い、ソ連国民にアメリカ人の生活水準の高さを見せつけ、そのような生活を求めさせることでソ連政府に圧力をかけるという封じ込め政策を実施しました。実際、その封じ込め政策は、アメリカの視点からみると成功でした。

 以上が本書のざっくりとした概要です。

 

 もちろん、アイゼンハワー財政均衡主義を主張する保守的な人物であることは教科書等で知ってはいましたが、その財政均衡主義が大量報復戦略や充分性の概念と繋がっていることは今まであまり意識していませんでした。アイゼンハワーは財政上の均衡を守るため、限定戦争は同盟国の通常兵力に任せることで、自国がそのような戦争に関わることを避けようとしていました。また、財政均衡の観点からだけではなく、限定戦争は即、核戦争に直結するものであるという考えも限定戦争を避けることに影響していました。

 そのため、アメリカは通常戦力よりも安価な核戦力に依存し、ソ連の攻撃を抑止するだけの充分な核戦力を維持し、限定戦争は同盟国に任せることで財政均衡を達成し、核戦争を防止しようとしていました。

 以上のことは必ずしも本書がもっとも主張したいこととは、かなり離れているとは思いますが、本書はアイゼンハワー政権の核戦略を理解する上でも、有用な文献であると思いました。

 また、冷戦は長期的な戦いで、文化的な封じ込め政策によってソ連に勝利することが出来る、というアイゼンハワーの冷戦に対する考え方は、偶然にも冷戦が終結する理由とあっていたわけですが、アイゼンハワー政権の封じ込め政策は果たして成功したのかという点については非常に答えにくい問題だと思いました。アメリカの政策担当者はこの封じ込め政策が成功したと記録していますが、このようなパブリックディプロマシー的な政策は定量的に評価することが非常に難しいもので、この政策が成功したか否かについては政策担当者の主観に大きく依存しているのではないか、とも思いました。